松蔭中学校・松蔭高等学校
校長 浅井宣光

 

 ■ 建学と松蔭の名前の由来

  松蔭女子学院は、1892(明治25)年、神戸北野(現在の神戸北野異人館街)の地に産声をあげた小さな女学校がその始まりです。英国国教会から派遣された宣教師たちは、女性の地位が低かった明治時代半ばの日本で、キリスト教精神にもとづく女子教育を目的としてこの学校を設立しました。校名の「松の蔭」は、校地西隣の北野三本松に由来し、現在そこには「松蔭女子学院発祥の地」という記念碑が建てられています。松は防風、防潮林にも植えられる潮風や強風に耐える樹木で、古くから日本の国土を代表する木でした。当時宣教師は「松は非常に日本的な樹木であり、慎み深さと汚れなく生きることを意味します。その松の木蔭に乙女たちが住み、学んでいるという姿が、日本の人たちに伝えたい学校の理念です」と本国に書簡を送っています。慎み、清廉、忍耐強さを兼ね備える女性を育てること。校名にこめられた願いは、私たち現在の教職員も共有しているものです。

 

 ■ 受け継がれてきた精神
 『娘のように妹のように』『オープンハート(心を開いて)』

  建学当初には「家族主義」という言葉が掲げられました。当時は寄宿舎生活をする生徒もおり、家族的生活のなかで「娘のように妹のように」彼女たちを慈しみ、育む空気がありました。この教育理念は、現在の松蔭にも生き続けています。
  「オープンハート」の標語の精神を学校に定着させた人物が、第8代校長の英国人エセル・マリー・ヒュース(1875~1968)です。日本語をはじめ4カ国語に通じる語学力と言語学、文学、歴史学に秀でた女性宣教師でした。現在、校内エセルホール入口には彼女の肖像写真が掲示されています。静かなたたずまいに秘められた、信仰と教育に生きる強い決意を感じさせる瞳は、遠い異国で神への献身を貫き、自己犠牲を厭わなかった彼女の生き方を彷彿とさせます。
 ヒュース校長は卒業式の式辞で、日本語で次のようなことを述べています。
 「皆さんは、この学校を自分の家として朝に夕に出入りし、私たち教員を自分たちの親しい友達と していた。私たち教員は、皆さんの卒業後も最上のお友達になって出来る限りのことをしたいと思う。いつまでも変わりなくこの学校に出入りしてほしい。皆さんも同様の心で、私たちのことを、松蔭のことを思いつづけてほしい」
 教員と生徒が、家族や親友のように心の垣根を取り払い、卒業後もなお深い信頼感で結ばれた人間関係を築くこと。彼女の願いは、鷹揚で寛大な人柄と生徒を公平に包容する姿勢によって、自由で生き生きとした校風を生みだしました。オープンハートの精神は、松蔭に着実に深く根付いています。

 

 ■ 『一粒のからし種』の教育理念と教育目標

 「一粒のからし種」という言葉があります。聖書の次の一節にもとづき、現在、松蔭のモットーとしています。
 「神の国を何にたとえようか。どのようなたとえで示そうか。それは、からし種のようなものである。土に蒔くときには、地上のどんな種よりも小さいが、蒔くと、 成長してどんな野菜よりも大きくなり、葉の陰に空の鳥が巣を作れるほど大きな枝を張る」(マルコによる福音書4章30~32節)
 イエスは、小さなからし種を取り上げて、このからし種は、神の愛と恵みが注がれて姿かたちを変え、やがて鳥が枝に巣を作るほどの木になると約束しました。
 この「一粒のからし種」は、松蔭での学びを通して、絶えず自分を見つめ直して古い殻を破り、新しい自分を発見することによって個性を確立し、社会に貢献する女性としての成長を促す私たちの教育理念なのです。
  松蔭の教育目標は人として素晴らしい女性を育成することです。人として素晴らしい女性とは、自分の夢や希望を実現する意志を持ち努力できる人。自分も人も大切する人。そして生き方や人柄が周囲に認められ評価される人でもあります。このような生徒を、女性を育てたいと思っています。キリスト教主義教育のもと、聖書の言葉に触れ、祈りの時をもち、人として成長してすることを願っています。聖書に次のような箇所があります。
 「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる。…このように、あなたがたは悪い者でありながらも、自分の子供には良い物を与えることを知っている。まして、あなたがたの天の父は、求める者に良い物をくださるにちがいない。 だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。これこそ律法と預言者である。」 (マタイによる福音書7章7~12節)
 松蔭での聖書からの学びや気付き、祈りの時は人を成長させ、素晴らしい女性になる基盤を育みます。
 まずは日々の生活のなかで、目の前にあることに一生懸命取り組むことが必要です。聖書に「求めなさいそうすれば与えられる。探しなさい、そうすれば見つかる。門をたたきなさい、そうすれは開かれる」とあります。この言葉は、一人一人が自分の目の前にあることに一生懸命取り組みなさい、と教えています。勉強し学力をつける。自分のやりたいこと、興味のあること、得意分野を見つけ、夢を実現してなりたい自分になれるよう努力を続けて欲しいと思います。
 次に、自分も人も大切にできるようになることです。そのヒントが聖書の「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」という言葉です。人から親切にしてほしい人は人に親切を、父母や家族から大切にしてもらいたい人は、いつも家族を大切に、人から挨拶をしてほしい人は自分からしてください。人から悪口や陰口を言われたくない人は、これらを決して口にしてはなりません。
逆に、自分にして欲しくないことを、人にしてはいけません。「自分にして欲しいと思うことを人にする」「自分にして欲しくないことは人にしない」と心に留めてください。
 最後に、人の気持ちに寄り添えるようになることです。松蔭では礼拝や聖書の授業で祈りの時をもちます。祈りのなかでは常に、苦しみや悲しみのなかにある人の気持ちを想像し、寄り添うことが求められます。病にある人、愛する人を失った人、弱者や、傷ついている人の気持ちを想像し、その人の心に寄り添うことができる人になってください。そしてその人の苦しみや悲しみがどうぞ癒されるようにと、祈ることができる人になってください。人の気持ちに寄り添える人、人が癒(いや)されることを祈ることができる人は、世界中どこでも認められ愛されます。

 

 ■ 『オープンハート(心を開いて)』
   そして『オープンマインド(思いを自由にして)』

  日本はグローバル社会にかつてないスピードで直面しています。来日外国人旅行者数はこの数年一挙に数倍に膨れあがり、短期・中期の語学留学生、海外駐在員としてアジア各地に赴任する企業関係者等も増加しています。今後ますます日常がグローバル化していきます。このようななかで中高生が身に付けるべき力は、第一にコミュニケーションツールとして英語他の語学力、第二に異文化理解・尊重する態度の2つに尽きます。まずは英語力を伸ばし、他多言語の知識もある程度身に付けることが必要となるでしょう。グローバル社会では異文化どうしの接触が起こるため、異文化理解・尊重の態度が必須です。言語学習を異文化理解のきっかけにすることで、グローバル社会に適応できる力が身につきます。
 松蔭にはオープンハートの精神があります。国籍や人種、民族の垣根を越え、オープンハートの精神で心を開いて他者を受け入れることは、グローバル社会で生活することの第一歩です。そのうえで異文化に対して先入観や偏見を持たず、ステレオタイプな決めつけを避け、オープンマインド(心を自由にして)の思考で公平にフェアに相手に接することができる女性を育てる必要があります。分け隔てない人間愛を持つ女性こそ、これからの世界が必要とする女性です。国内、国外の様々な環境、条件の下で生きる人間としての力、女性として生きる力を育成する学校でありたいと考えています。

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