松蔭中学校・松蔭高等学校
校長 浅井宣光

 

 建学と松蔭の名前の由来

■ 歴史
  1892(明治25)年に産声をあげた小さな女学校が松蔭の始まりです。明治時代半ばの神戸では、英国人宣教師たちがキリスト教伝道と英語教授のための男子校(神戸市中央区にあるSt.Michaels International Schoolの前身)を創設していましたが、女子教育機関についても設置計画を立て、本国の教会からも支援も得て、生徒数8名の松蔭女学校がスタートしました。発祥の地、神戸北野の異人館街の一角に「松蔭女子学院発祥の地」という記念碑があります。その後、3度の移転を経て、1929年に現校地に移りました。

■ 校名の由来
 松は、日本を代表する樹木で、防風、防潮林としても利用される強さがあります。設立当初の校舎の傍に大きな松が植えられていました。宣教師が本国にあてた書簡には、「松は非常に日本的な樹木であり、慎み深さと汚れなく生きることを意味します。その松の木蔭に乙女たちが住み、学んでいるという姿が、日本の人たちに伝えたい学校の理念です」と記しています。慎み、清廉、忍耐強さを兼ね備えた有為な人材を育てること。学び舎の名前に込めた先人の願いは、私たち現在の教職員も共有しているものです。

 

 教育理念『一粒のからし種』

 「神の国を何にたとえようか。どのようなたとえで示そうか。それは、からし種のようなものであ る。土に蒔くときには、地上のどんな種よりも小さいが、蒔くと、 成長してどんな野菜よりも大きくなり、葉の陰に空の鳥が巣を作れるほど大きな枝を張る」(マルコによる福音書4章30~32節)  

 聖書のこの箇所に由来する「一粒のからし種」は、松蔭の教育理念を象徴する言葉となっています。日々の学びを通して絶えず自分を見つめ直し、古い殻を破り、新しい自分を発見する。個性を確立し、社会に貢献できる人材を育成する。小さな一粒のからし種が芽を出し、根を張って大きな樹木へと育つ過程は、学校教育の期間に留まらず、生涯の人間的成長そのものではないでしょうか。 

 

 エセル・ヒュースと松蔭の校風 

  建学当初には寄宿舎で生活する生徒も多かった関係からか、「家族主義」教育という言葉が松蔭の校風を示すものとしてしばしば取り上げられていました。外国人宣教師・教員たちとの家族のように過ごす寮生活には、娘のように妹のように生徒を慈しみ、育む空気がありました。特に、大正時代の第8代校長エセル・ヒュース(1875~1968)は、日本語も堪能で独語、仏語など数か国語に及ぶ語学力と言語学、文学、歴史学に秀でた英国人女性宣教師でした。彼女の鷹揚で寛大な人柄と、公平に包み込むような姿勢は、自由で生き生きとした学校の空気を生み出しました。当時の日本は、国家主義の風潮が強く、個人の考えや意見よりも全体を優先する風潮がありましたが、彼女は”Open Heart”の精神を唱え、個人の多様な在り方と自由を尊重する姿勢を持ち続けました。彼女の肖像写真が、現在、校内エセルホール入口に掲げられています。静かで落ち着いた表情は、遠い異国で神への献身を貫き、自己犠牲を厭わなかった彼女の生き方を彷彿とさせますし、その瞳から信仰と教育に生きる強い決意を感じます。

 

 これからの時代をスクールモットー“Open Heart, Open Mind”とともに

 急激なグローバル社会化と社会構造の変化により、私たちは未経験の状況に直面しており、人生のあらゆるステップにおいて、一人ひとりが最善で最適の判断を下すことが求められています。中学高校時代には、生きる力、世界中どこでも生き抜くことが出来る力の基盤を自らの内に養う必要があるのです。
 「英語の松蔭」にはグローバルコミュニケーションのツールと、発信し受容するスキルを学ぶ教育コンテンツがあります。伝統の“Open Heart”の校風により、キャンパスには寛容さ、柔軟さ、そして強さを醸成する空気が漂います。聖書に書かれているとおり、神様に愛され導かれて集う者どうし、隣人を愛し、個人の多様な在り方と自由をリスペクトしようという姿勢が“Open Mind”です。人種・民族、国籍、宗教、ジェンダー、障害の有無など「隔ての壁」を乗り越え、グローバル社会にあって必須のダイバーシティー理解の合い言葉です。
 この学校で学ぼうとする皆様を、“Open Heart, Open Mind(心を開いて、思いを自由にして)”でお迎えします。このキャンパスでお会いしましょう。ご卒業の後には、勇気と智恵を兼ね備え、このモットーを実践する人間として、グローバル社会でのご活躍を期待します。伝統と現在が化学反応を起こし、日々、新たな松蔭が生まれています。このキャンパスで新しい時代の息吹を感じ取り、一人ひとりの個性を最大限に伸ばしつつ未来に備えましょう。お会いできるのを楽しみにしております。

創立120周年 全校生徒
創立130周年 全校生徒