松蔭中学校・松蔭高等学校
校長 浅井宣光

 

 1892(明治25)年、英国国教会の宣教師と神戸の日本人教育関係者が協力して小さな女学校を創設しました。これが松蔭の始まりです。すでに神戸では、キリスト教伝道と英語教授のための男子校(現在の“St. Michael’s International School”の前身)が英国国教会により設置されていましたが、続いて女子教育の取り組みも始まったのです。神戸の街では、“Kobe College”(現神戸女学院)に次いで2校目の女子キリスト教ミッションスクールの誕生です。

 創立時の校舎の傍らには、大きな松の木が生い茂っていました。宣教師が本国にあてた書簡には、「松は非常に日本的な樹木であり、慎み深さと汚れなく生きることを意味します。その松の木蔭に乙女たちが住み、学んでいるという姿が、日本の人たちに伝えたい学校の理念です」と記されています。慎み、清廉、忍耐強さを兼ね備えた、有為な人材を育てる。キリスト教とは特に関連しない日本的な「松」の「木蔭」を、学校の名に冠した先人の願いは、確実に今も受け継がれています。

 現在の松蔭は、中学2ストリーム制、高校3コース制の枠組みのもと、英語、国語(日本語)、ICT、探究学習を柱に教育活動をすすめています。特に英語コミュニケーション力の育成については「英語の松蔭」として重点的に取り組んでいます。130有余年の歴史と伝統が築き上げてきた学校の在り方に、常に刷新を繰り返してきた教育内容を組み合わせて、現在の松蔭があります。

 

 「神の国を何にたとえようか。どのようなたとえで示そうか。それは、からし種のようなものであ る。土に蒔くときには、地上のどんな種よりも小さいが、蒔くと、 成長してどんな野菜よりも大きくなり、葉の陰に空の鳥が巣を作れるほど大きな枝を張る」(マルコによる福音書4章30~32節)  

 この聖書の一節に由来する「一粒のからし種」という言葉は、松蔭の教育理念を象徴しています。日々の学びを通して絶えず自分を見つめ直し、古い殻を破り、新しい自分を発見する。個性を確立し、社会に貢献できる人材を育成する。小さな一粒のからし種が芽を出し、根を張って大きな樹木へと育つ様子は、学校教育の期間に留まらない、一生涯にわたる人間の精神的成長を暗示しています。 

 

 大正時代の第8代校長エセル・ヒュースは、独語、仏語など卓越した語学力と言語学、文学、歴史学に秀でた女性宣教師でした。その鷹揚で寛大な人柄と、接する人を温かく包み込むような姿勢は、自由で生き生きとした学校文化を築き上げました。当時の日本では、社会が国家主義に傾き、個人の考えや意見よりも国や全体を優先する風潮が強くありましたが、彼女は“Open Heart”を唱え、個人の自由や個性を尊重することを訴えたのです。

エセルホールの入口に彼女の肖像写真が掲げられています。凛として落ち着いた表情は、遠い異国で神への献身を貫き、自己犠牲を厭わなかった彼女の生き方を彷彿とさせます。

 

 「英語の松蔭」には、コミュニケーションツールとしての英語力を最大限に伸ばしつつ、PBL(プロジェクト型学習)やアントレプレナーシップ教育により、自ら考案し、協同して物事を作り上げる学びがあります。1世紀以上このキャンパスに受け継がれてきた“Open Heart(心をひらいて)”の精神は、寛容、柔軟、そして強さを着実に育み、自他を大切にしながらチャレンジする舞台に立つ生徒を勇気づけます。神様に愛され、導かれて集う者同士が、隣人を愛し、個々の多様な在り方と自由をリスペクトする“Open Mind(思いを自由にして)”の思考は、様々な「隔ての壁」を乗り越えて、公正公平な人間としての「根っ子」を伸ばすチャンスをもたらします。

 “Open Heart, Open Mind”の合言葉とおり、この学校で学ぼうとする皆様をジェンダーを超えてお迎えいたします。長い学校の歴史が築き上げた伝統に、現代社会の在り方と未来社会を見据えた教育ビジョンが合わさって化学反応が起こり、日々、新しい松蔭が生まれています。その息吹と変化を着実に感じ取りながら、一人ひとりの個性を最大限に伸ばしつつ未来に備えましょう。夢と希望をもってこのキャンパスに通い、世界中どこでも生き抜くことができるマインドセットとスキル身に着けましょう。

創立120周年 全校生徒
創立130周年 全校生徒